座談会概要
目的
当会では、標記「座談会」の開催を通して、視覚障害者の福祉・労働に関わる関係機関に、石川県における視覚障害者の就労環境の現状への理解を促し、視覚障害を持って生まれ育つ、また、中途で視覚障害を持つ方への就労支援体制構築の必要性を訴えている。
今年度の座談会では、視覚障害者の職業訓練を実施している視覚障害者就労生涯学習支援センター代表であり実際に講師、ジョブコーチとして視覚障害者の就労を支援している井上氏の講演で視覚障害者の就労事例紹介、行政からの受託事例を紹介してもらい、また、オンラインで職業訓練を受けた北山氏に一般事務業務のデモンストレーションを通して、視覚障害者がどのように働けるのかの具体的なイメージを持ってもらい、また、金沢にいながらオンラインで職業訓練を受ける体制構築について考えてもらう。
日時
令和5年11月28日(火) 13時30分~16時30分
会場
金沢市長土塀青少年交流センター4F大集会室
内容
- 報告 石川県の障害者雇用の現状
石川労働局職業安定部職業対策課 山﨑晋一 氏 - 講演 視覚障害者の就労事例紹介等
視覚障害者就労生涯学習支援センター代表 井上英子 氏 - デモンストレーション Windows標準の音声読み上げ機能等を使ったPC操作指導
井上英子 氏 - デモンストレーション 職業訓練受講者による一般事務業務
北山弘人 氏 - 質疑応答・意見交換
参加者:39名
(講師 2名)
(関係機関等 22名)
石川労働局、
金沢公共職業安定所、
石川県障害者職業センター、
石川県商工労働部労働企画課、
石川県福祉健康局障害保健福祉課、
石川県立盲学校、
金沢市経済局労働政策課、
金沢市福祉課健康局障害福祉課、
金沢障害者就業・生活支援センター、
石川県視覚障害者協会
(「あうわ」視覚障害者の働くを考える会 15名)
後援:金沢市労働政策課
報告・講演の概要
報告 石川県の障害者雇用現状
- 民間企業の障害者雇用者は4447人。障害種別では半数以上が身体障害、精神障害は10年ほど前から増加傾向にある。
- 石川における障害者の実雇用率と法定雇用率の達成企業の割合はどちらも全国平均をやや上回るが、目標の半分ほど。引き続き障害者雇用・就労について積極的に取り組むことが必要。
- 企業規模別で全国的に大企業ほど実雇用率は高いが、石川県では大企業また中小企業も積極的に障害者雇用に取り組んでいる。産業別では、石川県は就労継続支援A型事業所が含まれているため、医療福祉分野が特に高くなっている。
- ハローワークでの新規求職申込・登録数は増加傾向にある。特に、精神障害はここ10年で1.8倍に上昇している。そのうち45歳以上の身体障害の割合84.4%。運搬・清掃・包装の軽作業に就労する人が多い。職業紹介状況は、身体障害者1897人のうち視覚障害は100人である。
- 令和6年度より、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者である短時間労働者についても1人を0.5人とカウントする。
視覚障害者の就労事例紹介
※視覚障害者にジョブコーチや雇用管理サポートをした事例に基づくもの
- ヘルスキーパーから事務職へのキャリアチェンジ(コンサルティング会社の事例)
社員の福利厚生の一環としてマッサージルームを導入し、ヘルスキーパーを雇用したが
新型コロナ感染症拡大でマッサージルーム閉鎖。それに基づき事務職へのキャリアチェンジを支援するプロジェクトを立ち上げる
教育訓練(訓練施設の選定及び入所手続き)、環境整備(支援機器やソフトウェアの選定・購入、助成金申請)、業務選定・トライアル(訓練後の担当業務選定、その後業務レクチャーとOJTジョブコーチによるフォローのモニタリング)、対象者フォロー(定期的な面談、声掛けの実施)を約1年かけて実施。
キャリアチェンジに挑戦した社員は現在、ウエブからの情報収集、エクセルを使ったアンケート収集のパソコン作業の他、目に負担のかからない作業を交えながら業務に取り組んでいる - 中途視覚障害者の継続就労 40歳男性、視覚障害2級
眼の急激悪化を受け業務に支障がきたす。そのため画面読み上げソフト操作、キー操作によるアプリケーションソフト活用スキルを習得。在職者訓練そして生活訓練を受講する。 - 先天性視覚障害新卒入社 20代男性、視覚障害1級、食品包装会社
支援は事務所のオリエンテーション、支援機器活用、人間関係模索など。事業所側に、当事者を知ろうという気持ち、全体で受け入れるという気持ちがあった好事例。
(その他9例の事例を報告)
※当事者・事業者の不安、必要な配慮について
様々な事例がある中、視覚障害者を雇用するにあたり、視覚障害者は本当に与えられた仕事をできるのか、職場に受け入れてもらえるのか不安である。
雇用側は個人により障害の程度、進行具合が違うため今後のことは確定しづらく、適当な業務が見つけにくい・作業効率がわかりにくい、介助は必要なのかなどがあげられる。
→各部署に働きかけ、障害の特性に合った業務を見つけ出すことが大切。
一緒に働くためには、視覚障害(視野、見えにくさなど)について理解が必要(手書きの文字読み上げは不十分、所定の書き込みや押印が難しいなど)。
また、読み上げソフト、キー操作による操作法の理解が必要(保護されたデータは音声化されない、色分けされた領域はわかりづらいなど)。
視覚障害側もWord、エクセルはもちろんMicrosoft365が使えることが重要。
新卒の視覚障害者は職場で一緒に働くという意識をもってもらうこと、職場側は「視覚障害に起因する困難」と「データやシステムに起因する困難」を切り分けることが重要。中途視覚障害者は事務処理の能力とモチベーションの回復が大事。
共に働くための周囲の配慮・・・
- 在宅勤務を含む就労環境の変化への対応…Windowsのバージョンアップ、リモートアクセス、クラウド、オンライン会議などへの対応が必要である。このためにはシステム担当者の協力を得られるようにする。
- 視覚障害者のストレスを考える…眼科医、産業医、保健師、看護師、健康管理者、カウンセラーなどが医学的、心理的に対処し、上司、指導者、同僚などの適切な人が具体的に諸課題に適応する。
- 職務満足を考える…企業は、雇用率達成だけのために障害者を雇用するのではなく、能力を活かして「働く価値のある仕事」を確保し、視覚障害者のモチベーションなどを喚起して成果をあげることができるようにする。
デモンストレーション Windows標準の音声読み上げ機能等を使ったPC操作指導
デモンストレーション 職業訓練受講者による一般事務業務
- 自己紹介
- 中途視覚障害者となった私
- オンラインで職業訓練を受けた経緯
大学卒業後、商社営業職に就くが40代から夜盲症が出始め網膜色素変性症と診断、日常生活や仕事に支障が出てくる。時短勤務など職場から配慮を受け、何とか定年まで働く。
スクリーンリーダーやZoomTextを使用するようになるが、画面のフリーズ等で1日かけた作業が消えてしまったりと、なかなか上手く行かず、焦りと不安の日々が続く。(大海原に放り出されたような感覚)
退職1年半ほど前、東京視覚障害者生活支援センターにてスクリーンリーダーを使用したパソコン操作スキルを習いに週1回通うが、新型コロナによりセンターが一時閉鎖となり通所を断念。
退職後、視覚障害者団体「タートル」のメーリングリストで視覚障害者就労生涯学習センターにてオンラインを主体としたパソコン知識技能講座があることを知る。
オンラインによる講座があるのなら受けたいと思い、金沢ハローワークに聞いたが、関東近郊のハローワークにしか情報が回っていなかったため情報収集できず。
※国の機関のハローワークが全国で情報共有できていない点に問題を感じる。
金沢に視覚障害者向けのパソコン訓練講座はなく諦めていたが、埼玉県川口市のハローワークで同じ講座が始まると連絡を受け申し込んで3か月間受講。
Zoomで画面共有し、講師に画面を見てもらいながらの講義。
操作に慣れてくると、マウスなしでキーボードのオルト・コントロール・タブキーで次の動作に移れるということが分かった。とにかくAltキーで何かアクションを起こせることが分かったこと一番大きかった。日常生活においても、立ち止まって悩むのでなく、「気持ちのスイッチ(心のAltキー)押せばなんとか抜け出す方法があるのでは」という気持ちが持てるようになる。
自分は落第ギリギリの生徒だったが、周りの方は非常に高度なスキルを持っていた。 - デモンストレーション実演
日本建設情報総合センターの入札情報サービスサイトをブラウザで開き、公開中の入札案件を検索する。
案件の絞り込みを行い、内容を確認し必要と思われる書類データのダウンロードを行う。
この書類データを関係者にメールで送信する。 - オンライン講習を受講した感想
1. ICTを活用した一般事務・SE・プログラマーは視覚障害者の職域となっている。センター歴代卒業生の話を聞いても、視覚障害者の若い方たちが高度なパソコンスキルを持ち、大企業で活躍している事例がたくさんある。
視覚障害者の職業=鍼灸マッサージだけではなく、やる気があり、高度なスキルや知識を学んだ方は企業にとって非常に有能な人材となるということを各機関の方々にも広く知ってほしい。
2. 職業訓練施設拡充の必要性を訴えたい。石川県はこういう施設が少ない。特に中途視力障害の方々が退職してしまうのではなく、学ぶ機会を得て継続就労ができる、また在職者訓練を受けられる制度を活用して人材を出ていかないようにすることが必要。石川県で職業訓練施設を作らずとも、各機関で連携し、金沢にいながらオンラインにて講座を受講できる。そういった社会資源を活用した支援体制を考えてほしい。
質疑応答・意見交換の概要
井上さんへ
Q 視覚障害に起因する問題、システムに起因する問題を切り分ける必要があるとのことだが、視覚障害に起因する事例とは?
A Yさんの事例 小さい文字が見えづらい 交通費集計 写真が見えづらい
Q ビルドインのナレーターだけでも事務業務に使用し得るのか。より高性能のスクリーンリーダーが必要なのか。
A Windows10、11になって向上している。そこそこ使える。
Q 紹介事例に沖縄島地方の事例がいくつかありましたが、地方から依頼があり連携を取って対応されたという事でしょうか?これは我々の地域石川県でも可能でしょうか?
A はい
北山さんへ
Q 職場で必要なサポートは何か
A スキルと会社のシステムの親和を持たせる必要がある。両面からコーチできる人間に関わってもらいるとありがたい。
Q 生徒たち(小中高)に働くに向かって大事にしてほしいこと
A 知識と業務の一致が大事。(病気に関する知識のある専攻科卒が幼児保育事務)
各機関に一言コメントを促した。
- 石川県に在住する視覚障害者が各機関に相談しに来る件数は年に数人しかいないのが現状。相談する機関の存在を知らない、また中途失明された当事者が今後の人生について相談していただくことがあるが、その際、訓練を提案しても首を縦に振ってもらえない。提供できるサービスが限定されていること、本人の意思が固まらないことが件数が伸びない原因になっている。
- 各機関が連携している様々な事例を見せていただいて、体制づくりの参考になった。
- 在宅での職業訓練に可能性を感じた。
- IT企業出身だが、Windows標準のナレーターの存在を初めて知った。
- 石川県内の視覚障害で職業訓練希望者に現状どこまでできるのかを考える材料になった。
- スクリーンリーダーでのパソコン利用は、思っていたよりもとっつきやすい印象だった。
- 子供たちの進路(あはき以外)が多様化している。ICTでの就労までに大変な努力が必要。様々な方の支援が必要。
アンケート結果 (回答率50%)
そのように回答にした理由をご記入ください。11 件の回答
- もう少し、事例を絞っても良かった。
- 具体の就労事例を知る機会があまりないため。
- 参考になった
- 視覚障害者の方の支援の経験がないが今日多数の事例を聞くことが出来た
- 色々な就労事例の紹介があり、ソフトウェアや機器の工夫をすることで職域の幅や本人の作業スキルが高まり一従業員として戦力として仕事につけることを感じました。
- 身近に視覚障害と接する機会がなく就労支援を行った経験もありませんので実際に就労されている事例をお聞きして大変参考になりました。
- 企業が希望する職務内容に合わせて、どのような支援(視覚障害ゆえ何が必要か)どんなソフト、アプリが必要か判断してきめ細かい支援の数々の事例を紹介していただき有難うございました。
- 実例をもって経験話は深いものになった。
- 石川の事例が本当に少ないのでとても参考になりました。
- 職務内容の切り出しが多種多様ということが理解できました。
- 当事者の具体的な心情とうか 伝わったので
そのように回答にした理由をご記入ください。10 件の回答
- 分かりやすかった。
- こういった機会がないと、意識したり触れたりすることがないため、
- されていることの概要を知ることができたから
- 実際に体験できたので。
- 実際に体験でき、疑問点も確認できたので良かったです。他の障害(高次脳等)の方の補完にも使用できると思いました。
- 誰でも使えそう。早速家で試してみようと思います。
- 音声になれば必要かと思いました。
- 機構のテキストでナレーターを使ってみたのですが、テキストだけではよくわからないところがありました。今回デモンストレーションで見たことでようやく理解できました。本だけではわからない部分でした。
- 基本的な機能は自分たちの使っているPCでできることがわかりました。
- 全く知らないことだったため
そのように回答にした理由をご記入ください。11 件の回答
- 生の声は貴重だった。
- 実際の雇用の場をイメージできたため
- お話しが特によかった
- 実体験のお話(中途障害の苦悩など)をきかせて頂きありがとうございます。
- ご苦労されたこと現状必要な環境等具体的にお話していただき有難うございます。
- 実際に行われている業務の進め方がわかりました。イメージ出来てよかったです。
- 中途で受障され、今日まで学んだこと経験したことの生のお話が聞けてありがたかったです。
- 可能性と現実性を感じた。本人の意識が重要なことも確認できた
- 中途障害に至る経緯、訓練(オンライン)の話も聞けて良かったです。もともとのPCスキルがあった方だと思うので画面のイメージを作りながら作業されていたのかなと思いました。耳からの音と画面、キーボードを実際につなげている作業を見れて参考になりました。
- 「一般事務が視覚障害者の職域として考えていいのでは」という言葉はとても印象的でした。実際お話とデモンストレーションを見せて頂くことで可能性を感じました。
- 説明がわかりやすかった
4.視覚障害者の就労と現実において今どのように感じておられますか?
10 件の回答
- 今後、益々活躍の場が広がると思った。
- 視覚障害者の職域と、企業が考える職域にズレが大きいと感じている。
- 視覚障害者自身の努力もかなり必要だと感じた
- PCスキルの習得が就労、就労継続を可能にしていくと感じました。
- IT技術が進む中、視覚の方をとりまく世界、できることが広がってることが周りには(特に石川では)知られていないと思いました。
- 石川県ではまだまだ就労支援を行える機会や場所があまりなく視覚障害者の現状への理解も進んでいないように思います。
- 視覚障害者のPCを使用した仕事は「職域である」とのお話がありましたが、企業にそのことを伝えていく必要があると思いました。
- 理解の低さ、技術
- 訓練機関の地域格差はあるけれどオンラインでつながることで就労の幅が広がるのではと感じました。
- パソコン業務が十分可能とわかり 今後相談支援の際に 会社にも 業務切り出しの提案ができると感じた
5.この地域での視覚障害者の就労環境を改善するために何が必要だと思いますか。
10 件の回答
- 障害ある方の活動を更に周知していく。
- 視覚障害者の職域を正しく知ってもらうことと、そのための訓練が受けられること。
- 必要な支援サービス等とつながること、支援サービスの質の向上がさらに進むと良い 企業側の理解
- PCスキル習得の場
- 今日のようなデモンストレーションの事例紹介を商工会議所等経営者(IT関係も含め)の方に紹介する機会があると会社も今後雇用率が上がる中受け入れを考える手助けになるかなと思いました。
- メディアなどいろいろなツールを使って発信できるといいのかなと思います。まだまだテレビや新聞が特に効果的は大きいのでは
- 機器や支援を利用して離職しないでも働き続けられるということを周知していくことが必要だと思います。
- 窓口を広げることが理解につながると思います。
- 情報を提供できる人、スキルをサポートできる人がもっと増えるとよいと思いました。自分も
- 事業所の理解
6.皆様の立場から、いま出来ることがありましたらお書きください。
7 件の回答
- 所管の就労支援サイトを更に周知していく。
- 事業主の理解促進。正しい理解。
- 学校として、いろいろなところとつながっていくこと
- 支援者として自分のPCスキルの習得も必要と感じました。
- 就労支援の機会があれば一緒に情報を得たりしつつ行いたい。一緒に可能性を広げる手伝いをしたいと思う。ICTも学ばねばと思う。
- 実践に沿った支援
- ジョブコーチの支援の際 協会や 視覚障害者関係の方と連携していくこと
7.次回、取り上げたい、取り上げてほしいテーマがありましたらお聞かせください。
4 件の回答
- 障害ある方の生の声を更に聞きたい。
- 生活面のこと
- 県内の実例をもっと知りたい
- 実際の現場で働いている方とその事業所の方との 懇談会
8.その他、ご意見・ご感想
5 件の回答
- 参加者各位の意見、取組を知り、また共有できたことが非常に有用だった。
- いろいろなことが少しずつ進んでいくことを願っています。 ありがとうございました。
- 本日は視覚障害の方の就労についての現状をお聞きしたり業務のデモに触れることもでき大変勉強になりました。貴重な機会を頂き、ありがとうございました。
- 貴重な時間をありがとうございました。
- 今日のデモンストレーションは自分が体験することで視覚障害の方の力や可能性を感じました。貴重なお話ありがとうございました。各機関の連携が支援につながっていくのではと思います。