2022年度 視覚障害者の働くを考える座談会 報告

2022年度 「あうわ」視覚障害者の働くを考える座談会 報告

主催:「あうわ」視覚障害者の働くを考える会

後援:金沢市労働政策課

日時:令和4年11月30日(水)14時半~

場所:金沢市長土塀青少年交流センター 4階 大集会室

参加者:
石川県視覚障害者協会、
石川県立盲学校、
石川労働局、
金沢公共職業安定所、
石川障害者職業センター、
石川県労働企画課、
石川県障害保健福祉課、
金沢市障害福祉課、
金沢障害者就業・生活支援センターから各代表者
(金沢市労働政策課は欠席、メッセージにて参加)
アドバイザー:日本視覚障害者職能開発センター

目的:過年度において、視覚障害者が働くための問題点をあらためて認識し、各機関の現状について把握し問題共有ができたため、今年度は実際の事例を通して石川県でどのような支援ができるのかについてを考えることとした

テーマ:「事例紹介を通して、今、この町で求められる支援を考える」

職業訓練を受けての就労事例     M氏(視覚障害1種1級 両目光覚弁)

・大学卒業時の就活では自己アピールができず、企業側もそれでは任せる仕事がないという理由で就職できず。それを機に日本視覚障害者職能開発センターで職業訓練を受ける。できることが増えたことで自信もつき、通信会社の障害者採用枠で就職に至る。現在5年目。上司、社員のサポートも幸いし、様々な経験を経て今の成長がある。
・同じ障害を持つ仲間は仕事がないという悩みが多い中、任せてもらえる仕事があることはとても大きいと感じている。
・企業側に必要な機器を導入してもらうことで、自分のできることがさらに増えた。
・ハード面では必要な機器の導入、ソフト面としては、自身の訓練という土台が合わさり、企業にとって必要な人材として仕事をすることができている。
・視覚障害者にとって職業訓練を受けることは、職域が広がり、社会に参加できることである。

どの地域であっても、職業訓練を受けられるような状況になることが望まれる。

盲学校の進路支援現状報告     石川県立盲学校校長

・現在の児童生徒数は小中学部10名、高等部7名(普通科4名、保健理療科0名、専攻科保健理療科2名、専攻科理療科1名)の合計17名。
・理療科は、視覚障害のある方や、働き始めてから視力が低下した方を対象とし、「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」の国家資格の取得を目指す。
・学校として就職に向けて行っている事は、
①ジョブカフェいしかわが講師の進路セミナー
②卒業生から話を聞く進路を考える会
③雇用促進セミナー
④施設見学、職場実習、校内外の臨床実習
など。
・専攻科卒業生の進路状況は進学、病院、高齢者施設、治療院・訪問マッサージ、自営業、ヘルスキーパー、自宅・その他。
・普通科卒業生の進路状況は過去5年で大学1名、理療科進学1名、福祉就労2名、一般就労1名であり、一般就労はA型事業所のため本当に一般の就職先の括りでいうと0名となる。
盲学校はカリキュラムに沿って理療科で資格取得を目的に行っているが生徒数も減少している今、IT方面への職業開拓が課題であると感じる。ただ現状で職業訓練の内容を組み込むことは難しい。行政とどのように進めていければよいのか考えていけたらと思う。

さいたま市の視覚障害者就労支援の取り組みについて

「あうわ」視覚障害者の働くを考える会会員 H
・さいたま市では、重度障害者が就労すると利用できなくなる介助サービスを、重度訪問介護利用者に限り、市独自で提供してきた。
・令和2年10月から、国や県が就労時にも重度障害者が介助を受けられるように、重度訪問介護利用者を対象に、重度障害者就労支援事業を開始した。当事者団体や委員の提言、市の同行援護、行動援護利用者へのヒアリング等を経て、令和4年度よりこの事業の対象が、同行援護利用者と行動援護利用者に拡大された。しかし、まだ現時点では同行援護利用者の制度利用はない。
・制度利用をする際、この事業を利用したい視覚障害者の勤務している企業が、独立行政法人高齢・障害求職者支援機構の「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」を活用して、職場で日常必要な支援を行うことが条件であるが、会社側にも費用負担が生じることから「そこまでしてこの制度を利用するのは、会社に迷惑をかけてしまう」と躊躇する方々が多く、企業側からも、費用負担をするならもっと別の支援に充てたいという声もあることが、制度利用がないことに影響していると言える。
・すでに一人で通勤ができる同行援護利用者は、定期的、継続的な支援のニーズはなく、天候不良のときだけ利用したいなどといった一過性のニーズなので、対応してくれる事業所がない。
・この過程で浮き彫りになったのは、埼玉県内に在住し、かつ在職している視覚障害者が利用できる「在職者訓練」を行っている機関が非常に限られていることである。(職業リハビリテーションセンターのみ)
・県内の視覚障害者機関では、日常生活レベルのICTスキル訓練にとどまっており、ビジネスレベルのICT訓練ではない。ただし埼玉県在住であっても、勤務先が東京都であれば東京しごと財団の委託事業である在職者訓練が利用できる。これは、東京都との大きな違いである。
・ほとんどの視覚障害者が、人生半ばで見えなくなったり、見えにくくなる現状では、会社に籍を置きながら視覚障害者に必要なビジネスICTスキルを訓練できる機関があるかどうかは、その方の職業人生を左右する大きな課題であり、求職者と在職者との大きな職業訓練の制度の差がここにあるように思う。
・就労するなら出張もできなければいけない。視覚障害者はできない、ではなく訓練と事前の準備でできることを知ってほしい。そのため今回一人でさいたまから公共交通機関を利用して金沢へ来た。当日までに金沢駅から目的地までの行き方を会場に確認すると10分以内に迅速な返答があった。宿泊ホテルでもサポートの充実を感じ、当事者側からの適切な問いかけがあれば、石川県ではサポートできる体制があるから、自立できる県であると実感した。制度面、訓練面など一日も早く体制が整い、必要な方に必要な支援が届くと良い。

国立障害者リハビリセンター、国立職業リハビリセンターの視察報告及び問題提起

金沢市障害福祉課課長 O氏
・昨年度の座談会にて様々な話を聞き、何ができるかを考える前に視察をしたいと思い、今年8月に国立障害者リハビリセンター、国立職業リハビリセンターを視察した。
・国立障害者リハビリセンターは、自立支援18ヶ月、就学移行支援3年・5年という期間が設けられている。自立支援は日常、PC、歩行、ロービジョン・点字などがあり、全盲の方は歩行が多めの訓練内容となっている。
・国立職業リハビリセンターは全て個別訓練。PCができることが基本である。視覚障害者はビジネス情報系(OAシステム、経理事務など)の職業で1400時間学ぶ。ITパスポート、情報処理技術の資格取得を目指す。全盲は3か月の導入訓練+ビジネス訓練を実施。
・2つのセンターを視察し、レベルの高さを実感した。センター周囲の環境も幅の広い歩行者道路であったり、点字ブロックであったりと訓練できる環境が整っている。石川県、金沢市、でこのようなセンターの環境を作り上げる、取り入れることはかなり難しいが、少しでも、今、できることがないかを考えたいと思っている。
・視覚障害者の方々は必ず最初に眼科にかかる。まずは医療を窓口とし、行政、協会と連携していくことが大切であると感じる。医療、行政、協会の3拠点をつないだ三角の真ん中に視覚障害者を位置づけ、当事者にとっては、とても難しい「情報共有」をできることが大切だと考える。
・民間企業への就職は、今すぐに繋げていくことは難しいため、まずは行政での就労を考えてみたい。
(例)会計年度任用の職員5年など
・行政が横のつながりを作り、各機関でできることを一緒に考えていけたらと思う。

【まとめとして】

*上記4名の報告を受けて

参加者からは「視覚障害の方の事例を聞くことができ貴重だった、当事者の実例経験は参考になる」「就労訓練や就職までにどのようにして繋がることができたか、経緯や仕事内容、就労に必要な力など知ることができた」などと、やはりリアルな声は届きやすいことが分かった。
「ビジネスとしてのICTの必要性」「支援制度を活用までつなげることの大切さを再認識した」「就労するなら1人で出張できる力が必要という言葉、そのために事前に周到な準備をし行動する実践力が素晴らしい」など、報告に対して感じることも多かった。
 今回のテーマである「今、この町で必要な支援」についての意見としては、「行政は何事にもまずは一歩踏み出す勇気が必要」「正社員になれる訓練」「情報共有の必要性」「IT等の訓練機関がない地域でもできることは何か考える」など前向きな意見がたくさん出たが、現実問題として「民間企業・市民の障害に対する理解不足(知る機会がない)」「選択肢が少ない」「今回の事例のようなケースが増えることが望ましいが、まずは当事者が支援・訓練機関にしっかり繋がる環境づくりの必要性を感じた」などが挙げられた。来年度に向け、就業中の方の現状や行政の考え、医療機関の声など取り上げたいことも挙げられた。
今回の座談会の内容(事例、盲学校の現状、さいたま市の報告、訓練機関視察)を参加者と共有できたことは大変有意義なことであり、このことを踏まえて石川県や金沢市では何ができるのか、を各機関がより深く考えていく機会になったと思う。各機関が自分の所では何ができるのかを検討し、意見を出し合いながら実現に向けて進んでいけるよう来年度以降も座談会を行いたい。各機関の横のつながりをさらに深めて、当事者に必要な情報を繋げる環境づくりができるよう一歩ずつ進めていきたい。

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