「座談会」の開催を通して、視覚障害者の福祉・労働に関わる関係機関に、石川県における視覚障害者の就労環境の現状への理解を促し、視覚障害を持って生まれ育つ、また、中途で視覚障害を持つ方への就労支援体制構築の必要性を訴えている。
今年度の座談会では、昨年の井上氏の講演内容を振り返った後、新たに県内の当事者2名の事例を基に3グループに分かれ、ブレインストーミングを用いて事例検討を行った。過去、現在、未来を想定し、その時々においてどのような支援が必要か、どのような提案ができるかなど、考え合う場とした。
イベント詳細
- 日時:令和6年11月7日(木) 13時00分~16時00分
- 会場:金沢市長土塀青少年交流センター4F大集会室
- 報告 石川県の障害者就労の現状
石川労働局職業安定部職業対策課 水上孝次氏 - 視覚障害者の相談事例検討グループワーク
- 質疑応答・意見交換
- 参加関係機関
日本視覚障害者職能開発センター
石川県視覚障害者協会(都合により欠席)
石川県立盲学校
石川労働局
石川障害者職業センター
金沢公共職業安定所
石川県商工労働部労働企画課
石川県福祉健康局障害保健福祉課
金沢市福祉健康局障害保健福祉課(都合により欠席)
金沢市経済局商工労働課
金沢障害者就業・生活支援センター
報告・グループワークの概要
報告 石川県における視覚障害者の就職を取り巻く状況
- 視覚障害者は毎年約30名が新規求職申込をし、実際に就職に繋がるのは約15名である。
- 視覚障害者の雇用状況は約100名。医療・福祉系企業とあるが、職種までは把握できていない。
- 石川県内のハローワークで利用登録を行い求職活動中である視覚障害者は現時点で19名。
これは雇用保険登録前にハローワークへの登録が必要であるため分かる人数である。 - 19名の平均年齢は53.3歳であり、およそ6割(11名)が重度の視覚障害である。その内の7割強は「あ・は・き」(ヘルスキーパー含む)を希望している。
- 令和6年4月以降の実績として、応募職種はヘルスキーパー、駐車場整理、軽作業、清掃、一般事務であった。
- 昨年、全国のハローワークで受理した「あ・は・き」求人の状況は、就業場所が石川県内のもので82名分。その内、障害者を対象としたものは17名分であった。
- 視覚障害者というと「あ・は・き」が職種であるとイメージするが、まずはハローワークの職員が「あ・は・き」だけが、職種ではないことの理解が必要である。
令和5年度座談会の振り返り
- 専門人材の整理として、各業務の内容紹介
障害者就業・生活支援センター、ジョブコーチ、就労継続支援A型・B型事業、就労移行支援事業・就労定着支援事業 - 視覚障害社員のキャリアチェンジ事例
- 中途視覚障害者の就労事例
- 新卒視覚障害社員の就労の今
- 視覚障害者の就労のために
- 共に働くために必要な配慮
- 地域の枠にとらわれない支援機関の活用
上記内容を踏まえながら、今回の座談会では県内の2事例を基にグループワークとした。
グループワーク
事例A、事例Bとする
1グループ1事例を基に、ブレインストーミングの手法を用いてグループワークを行った。
事例A
基本情報
視覚障害5級
網膜脈絡膜萎縮※1
網膜剥離※2
視力 右 手動弁 左 0.06 視野欠損あり
家族 中学生の娘1人
仕事 ソフトウェア会社勤務SE 勤続20年
一年ほど前から焦点が合わない状態がはじまり徐々に文字が読みにくくなってきた。仕事の効率が著しく低下している。
車通勤はなんとかできているが、怖い時がある。
追記
会社について
仕事の効率が低下しまわりにもわかる状況になってきたため上司に相談。
会社からは他職種への転職をすすめられる。
手帳取得も勧められたため眼科に相談し取得(5級)。
配置換えがあったが業務の体制についていけず鬱状態となり休職。
家族について
中学生の娘と二人暮らしのシングルマザー。仕事はやめられないと思っている。
相談できるところがなくひとりで悩んでいる。
3枚の画像は正常な見え方、相談時の見え方、20年後の見え方のイメージです。
※1 網膜脈絡膜萎縮
網膜や脈絡膜が正常時と比べて極めて薄い、委縮した状態になることで機能を維持できない状態になる。難治性・進行性のため、視力低下にとどまらず、最悪の場合は失明をする可能性がある。
※2 網膜剥離
眼球の裏側に張り付いている網膜がはがれ、視野欠損や視力の低下が起こる。裂孔を原因とする網膜剥離を放置すると網膜全体が剥離して、完全な失明につながる。癒着手術が必要。
事例B
基本情報
46歳 男性
視覚障害1級 レーベル遺伝性視神経症※
視力 両眼ともに0.01(視野狭窄あり)
家族 なし 1人暮らし
仕事 昨月(10月)、約8年務めていた飲食関連の会社を退社。直営店舗のマネージメントや営業等の総合職として従事していたが、著しい視力低下と実際の職場環境等を鑑みて任務遂行の継続を断念した。
経緯
昨年11月、病院での診断により病名とその後の視力低下についての宣告を受け、右目の視力低下から始まり、年明けには左目にも症状が現れ、2月には車の運転も断念。
絶望感と同時に襲われた強い焦りから、視力が少しでも残っている間にと、症状の進行と並行して、視力低下後の仕事(収入源)について模索。
しかしながらハローワークでは盲学校で学び資格を取得してからの求人しかないとの回答を受ける。また、渡された関係機関の参考資料に記載の各問合せ先に順次連絡するも、今後の方向性を定めるには至らず。
視覚障害=盲学校という道は準備されるも、その間の収入源に苦慮。
とは言え、その他の選択肢が乏しく悩み考える日々。
左右の画像は、左は正常な見え方、右はレーベル病によく見られる見え方のイメージです。
※レーベル遺伝性視神経症
網膜の一部の細胞が選択的に障害される病気。発症すると数週間から数ヶ月の間に、両眼の視力低下、中心部の視野欠損が起こる。視力低下や視野欠損が進むが、完全に失明することは非常にまれ。
グループ2
相談事例Aの話し合い
- 相談者は目が見えない現状にパニックになる。不安からくる整理できない背景を前提にかかわる必要性がある。
- 眼科医に受診した際に、眼科医の次に、行政等どこに繋がっていけばよいかを紹介してもらえるような横の連携が必要である。
- 福祉サービス利用の際、支援員にコーディネートしてもらえると良い。
- 今後の生活について、地方の視覚障害者のための在宅訓練が認められてリモートでの職業訓練が受けられると良い。
- 5、10年後にはどんな状況になるのか、確認していく必要がある。
- 長期的に見ると、定年後のキャリアプランについても想定したいところである。
グループ1
相談事例Bの話し合い
- 短期的には生活面を安定させる、長期的は就職について考える必要がある。
- 県の視覚障害者協会に通っている方のため、日常生活の安定につながる支援を受けて、整える。
- 就職については情報が入ってこないということが問題である。
- 障害者就業・生活支援センターや求職支援関連機関に申し込んでほしい。
- ハローワークに行くと、盲学校で学ぶしかないと言われたという事実あり。
- すぐに就職は難しいと思うと感じる。
- 盲学校に入学し「あ・は・き」の資格取得をするとよいと思う。
- オンラインを含む長期または短期の職業訓練を受けるとよい。
- 障害年金を受給申請中。疾病手当受給後、雇用保険の失業給付も受給しながら2年程度の長期職業訓練を受け、でスキルアップを目指すのが良いのではないかと思う。
- 国立職業リハビリテーションセンターは経済的なことを考えると勧めたい。
- 仕事の洗い出しをしてジョブコーチを活用し、自分のできることを広げてほしい。
グループ3
相談事例Bの話し合い
- 眼科医から手帳取得までを連携して進めていけたらよい。
- 本人の就労への支援に対しても資格がないと難しく、訓練をしている間の生活保障はどうするのかと思えてしまう。生活保障の特例ができないのか、盲学校も働きながら学ぶことはできないのかと思う。
- 一般企業は負担が大きい為、行政枠の採用を広げるのが良いのではないかと思う。
- ハローワーク担当者の「あ・は・き」しかないという返答は改善するべきと感じる。
- 当事者の就職活動として、自分は何ができるかをアピールすることが必要である。
- 結論は出ないが、目が見えなくなってからは福祉・就労の情報に繋がるようなコーディネーターが必要だと思う。
- 課題を出して、どう改善していくかを話し合う場が必要である。
- 高校生には企業採用担当が懇談会や懇親会をしているところがあるので、障害者も同じように開催して企業と当事者がお互い歩み寄ることが大切ではないかと考える。
グループワークの統括(日本視覚障害者職能開発センター)
- 目の前に来られた方へは解決のためにアドバイスできても、5年、10年後を考えたアドバイスは難しいので、少しずつ、今、必要なことをその都度アドバイスしていくことが大切である。
- 地方から日本視覚障害者職能開発センターに繋がり、在宅でのリモート訓練が可能ではあるが、現地で、繋げる人(サポートする人)が必要である。
- ビジョンケアネットいしかわの相談窓口があるものの認知されていないので広める必要がある。
- 地元で解決できることが理想だが、難しい場合は東京の日本視覚障害者職能開発センターで相談に乗れるので気軽に声を掛けてほしい。
質疑応答・意見交換
参加者
- 生の悩みを聞くことができたことで、各自自分の持ち場に持ち帰り、検討できることは進めていきたいと思う。
- 地震で一部仕事を失ったところもあるので現在復旧に努めており、継続して支援していきたい。
- 年間数件だが視覚障害の相談はあるので、しっかり相談に乗りたい。
- 令和2年からデジタル社会への推進化計画が始まっており、データベース化も進んでいるので、視覚障害者の訓練がますます重要になると思う。
- 相談できる所に繋がるということが大切なので、コーディネーターがいるとよいと思う。
- ヘルスキーパーが広がるといいし、横の繋がりを強くしていきたいと思う。
- 相談者は視野狭窄の方が多く、だんだん見えなくなることで不安が増すので、今後は気持ちを受け止め、寄り添った支援をしていきたい。
- 最初の「どうしたらよいのか?」に対して横の連携を深めていきたい。
- 障害者の方の立場になって考える良い機会であった。
- 働き盛りの年代で視覚障害者になることが多いので、職業訓練は必要である。
- 盲学校は現在生徒数17名と少なく、理解・啓発・職場実習の受け入れなどが難しい状況である。
- 今まではなかった視覚障害者からの相談が、ここ2,3年数件でてきているので進歩だと思う。
事例になった当事者より
- この場でみなさんに考えていただく機会ができて良かった。
- 自分は繋がれず苦しい思いをしてきたが、未来は繋がれる環境になっていてほしいと願う。
- 当事者であってもほかの当事者に勇気を与えられるような存在になりたいと思う。
- 今までの座談会は情報提供だったが、今回グループワークを実施できてよかった。
- 視覚障害の就労というテーマを視覚障害者の仲間に伝えると大変難しいことだと言われたことを今、とても痛感しているが、少しずつ前に進んでいると思っている。
- 『繋がる』ことが一番の課題である。
- 今回は2事例だったが、現実には相談難民がたくさんいるので、今後も情報提供を続けたい。
アンケート結果
Q.あなたの所属先を記入してください
Q.石川労働局 石川県の障害者雇用の現状について
そのように回答した理由を、ご記入ください
- 視覚障害にスポットを当てた説明だったため、状況をよく理解できた
- 内容そのものは良かった。さらにあはきの月収、離職率なども知れたらいい。
- 視覚障害のある方の就職情報の提供が参考になりました。
- 実情がわかった
- 説明者なので
- 行政の立場につき、良し悪しを言うのもと思い「どちらとも言えない」としました。
- 支援がないわけではないものの、知らない、アクセスできないというところが大きいかと思います。
- 具体的な数字で示され、わかりやすかったです
- 視覚障害単一での情報はなかなか得られるものではないため。
- 詳細な状況を理解できていないため
Q.視覚障害者の就労事例紹介について
そのように回答した理由を、ご記入ください
- 昨年の説明を振り返りできたため
- 都会と地方では違うのではないかと思う。事例のような対応をしてもらえる企業は石川県内にどれだけあるだろうか。
- 要約されておりわかりやすかったです。
- 昨年の振り返りということで、まとめられていたと思います
- 昨年の動画を拝見していたので、自分的には重複でした
- よく理解できました。
- 昨年も受講はしましたが忘れていたこともあり、改めてすごいボリュームの会であったと再認識しました。
- 昨年度の状況が確認できる内容であったため
Q.事例検討グループワークについて
そのように回答した理由を、ご記入ください
- 違った所属の人と視覚障害者の就労について話し合えて良かった
- 他の参加者とともに考える機会になりよかったです。
- 今現在のこともそうだが、10年後、退職後といった先を見据えたアドバイス、相談ができるところがあると良い
- 中途で視覚障害になることの大変さを改めて知る機会になりました
- 当事者に近い立場で考えることができました。
- 最初は何を話せばよいかわかりませんでしたが、他機関の方と話すことで、自分では気づかなかったことも意見交換することができてよかったです。
- 事例がわかりやすくてよかったです。
- 障害者の方から直接状況を聞けたことで課題等がわかった点がよかった
<事例検討グループワークを振り返って>
Q.この地域での視覚障害者の就労環境を改善するために気づいた点はありますか。また、そのためには何が必要だと思いますか。
- コーディネートの重要性
- 企業、事業所に知ってもらうこと、
- 継続して支援すること
- 専門的に相談支援できる人が不可欠だと感じました。
- 病院や市役所の窓口から、視覚障害者協会などに、しっかりつなげてほしい
- 視覚障害者がサポートを受ける最初のきっかけ作り(眼科)が第一ではないでしょうか
- 本人が一歩ふみだせるためのよろず相談に応じてくれる者(機関)が必要
- 縦割り行政ではなく横の連携をつくることで、どこに相談すればよいか、わからないことをなくしたいです。
- 支援機関のヨコの繋がりが必要と思いました。
- あとは困ったときにはココへという一次受付的な場所(支援機関)の周知があると良いと思いました。
- 企業の理解とマッチングほ機会が大切だと考えている
<事例検討グループワークを振り返って>
Q.今取り組めることがありましたらお書きください。
- 生活支援
- 将来を見据えた相談支援の視点を持ちたいと思いました。
- 各企業や自治体がヘルスキーパーを雇う
- 障害者一人ひとりにもっと丁寧に対応するよう、ハローワークには、早速連絡させていただきます
- よく考えます
- どうしたらよいかわからず、相談に来た人の気持ちを受け止め、よりそった支援をしていきたいです。
- すぐに取り組めることは難しいが、研究を行うことの必要性は感じている
Q.視覚障害者の就労と現実について今どのように感じておられますか。
- あはき以外でも活躍できることを広く周知すべきだと思う
- 厳しい。特にあはき以外
- 職域が広がるとよいと思います。
- たいへんだと思う
- 障害だけでも苦労しているのに、収入減は納得いかない、とのご本人の発言が印象的で、こういった声に応えていかないければいけないと思いました
- むずかしい問題だと思います
- 企業の理解がなく、なかなか応募できる求人がありませんが、もっと応募できる求人がありませんが、もっと応募できる求人を増やしていきたいです。
- 退職する前に誰か、どこかに相談してほしい。
- 非常に厳しい状況だと感じている。課題解決に向けて少しでもできることがないかを検討していきたい。
Q.次回、取り上げたい、取り上げてほしいテーマがありましたらお聞かせください。
- 相談支援事例
- 私は直に聞いていないので、当事者の話を聞く機会があったらよいなと思いました
- おまかせします
- 視覚障害となった際に必要となる訓練機関のお話を聞きたいです。
- 実際に就労された方がおいでになればその意見を聞いてみたい
Q.その他、ご意見・ご感想
- 当事者の方とお話する時間を多くとってほしい
- ありがとうございました。
- 貴重な機会をいただきありがとうございました。
- 今年もありがとうございました。
- 大変良い機会となりました。ありがとうございました。